待機児童隠し? と疑われる事案。放課後児童クラブ(学童保育所)の待機児童数は正確に把握できていないでしょう。

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 佐賀市が、条例では小学生を受け入れるとしているのに小学4年生以上の放課後児童クラブの入所を受け付けず、入所できなかった小学4年生以上のこどもを待機児童数に計上していなかったと報道されました。国も激おこのようです。佐賀市のようなことは全国あちこちで起きているでしょう。児童クラブの待機児童数は「隠れ待機」の把握が困難。実際は公表値よりはるかに多いと考えられます。
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<報道から>
 共同通信社が報道し、地元紙は当然、日本経済新聞もインターネットで読める記事を公開していました。日経は勤め人が手に取ることが多いでしょうが、働きながら子育てする人には児童クラブに入れず待機児童になるということは切実な問題ですから興味関心が高いでしょう。(わたくし萩原はひねくれた性格なので「日経は児童クラブが足りないことをよく記事にして企業の児童クラブ参入を促しているからその方向線上にあるんだろう」と、うがった見方をしますがね)
 ではいくつかの報道から引用して紹介します。
 日本経済新聞が2025年11月21日16時41分に配信した「佐賀市、学童保育の待機児童「少なく回答」 国の調査に11年間」との記事です。
「佐賀市が小学生の放課後児童クラブ(学童保育)の利用状況を尋ねる国の調査に対し、11年間にわたって待機児童数を実態より少なく回答していたことが21日分かった。坂井英隆市長は同日の記者会見で、国の調査の前提から逸脱していた事実を認め、「2027年度の市内全校区での受け入れ実現に向けて、受け皿の拡大を急ぐ」と述べた。」
「黄川田仁志こども政策相は21日の記者会見で「ニーズが正しく把握されていなければ誠に遺憾。詳細は担当課で確認中」と説明した。」

 県紙(=新聞業界独自の言いまわし。それぞれ拠点を置く道府県の全域を取材・販売エリアとしている新聞のことで、時にはその道府県の行政・議会・メディアに強い影響力を及ぼす。静岡新聞が代表的)の佐賀新聞がヤフーニュースに11月21日17時27分に配信した「待機児童の全国調査に「少なく」回答 佐賀市が11年間、高学年の一部を除外 学童保育の申請を受け付けぬ校区も」の記事を一部引用します。
「小学生全学年の希望者数と待機児童数を尋ねる国の調査に対し、佐賀市は校区によって「場所が確保できない」などの理由で高学年の利用申請そのものを受け付けておらず、国が求める調査の前提を逸脱していた。待機の実態が見えず、「なかったことにされたニーズ」が相当数あるとみられる。」
「佐賀県内で学童保育を実施する全市町は条例で学童の対象を小学1〜6年生としている。ただ、佐賀市では全校区で受け付けているのは「3年生まで」。4年生以上は校区ごとに「場所が確保できない」「支援員が足りない」などの理由で、受け付け学年が異なる。高学年の受け付けは「希望する学年全員が利用できると見込んだ場合に限る」としている。例えば、4年生の受け入れは100%可能だが、それ以上の学年では不足が見込まれる場合、5、6年生は申請書をそもそも受け付けない。その結果、受け付けない高学年の待機児童数は数字上、ゼロになる。」

 サガテレビが11月21日18時16分に配信した「佐賀市 放課後児童クラブ待機児童少なく国に報告か こども担当相は「誠に遺憾」【佐賀県】」の記事を一部引用して紹介します。
「佐賀市によりますと県内の放課後児童クラブは小学校全学年を受け入れる体制になっていますが、佐賀市の約半数の16校区では場所や支援員などが確保できない場合、4年生以上の申し込みを受け付けていなかったということです。また、県は国に対し県内の待機児童数を毎年報告していて今年の待機児童数229人のうち佐賀市は33人となっています。」
(引用ここまで)

<制度の対象外だから待機児童にならない理屈は、馬鹿げている>
 佐賀市は条例で放課後児童クラブの受け入れを小学6年生までにしていながら、市内の約半数の地域で、場所や職員の準備が整わない場合に小学4年生上の利用申し込みを受け付けていなかったということです。申請を受け付けないので待機児童として計上されない、ということです。
 あとで触れますが、これは典型的な「待機児童隠し」の手法そのものです。佐賀市が、待機児童数を減らして国に示したかった意図があったのかどうか分かりませんし、報道記事をいくつか読む限りでは、物理的に高学年の受け入れができないのでそうしなかっただけで結果的に待機児童としても計上されなかった状態が続いていたのかも、しれません。
 しかし、報道でも引用したように、こども家庭庁の担当大臣は相当おかんむりです。待機児童の事実の把握に誤りがあるようでしたら、国が進めている待機児童解消の施策にも影響が出ますからね。そうでなくても、児童クラブについて国が行っている「実施状況」の調査では、支援の単位数の算定間違いで統計資料としては正確性が損なわれています。

 その実施状況調査では、佐賀県の令和6年5月1日時点の待機児童数は152人で前年より33人減っています。なお令和7年5月1日時点の調査結果は12月下旬に公表されるでしょう。この調査では、指定市と中核市は待機児童数に関わらず待機児童数が表示され、それ以外の市町村は待機児童数が50人以上でないと公表されません。報道記事では佐賀市は33人なので実施状況調査には登場しません。佐賀県内では唐津市が63人の待機児童数なので紹介されています。
 また実施状況調査では、学年別の待機児童数や受入クラブ数も公表されています。
待機児童数
1年生 2,209 (12.5%) カッコ内は全体の割合
2年生 2,116 (12.0%)
3年生 3,879 (21.9%)
4年生 5,707 (32.3%)
5年生 2,756 (15.6%)
6年生 1,019 (5.8%)
合計  17,686 (100.0%)
一目瞭然、小学1年生の待機児童数(小1の壁)より、4年生の方が倍以上です。これが小4の壁、そのものです。5年生も1年生より多いですね。このことは、高学年が待機児童となるカラクリが生じているということです。通常、高学年になれば児童クラブの登録は減ります。高学年は児童クラブではなく別の場所で過ごすようになるからです。高学年になればなるほど利用ニーズは減るにも関わらず、児童クラブを利用したくても利用できない待機児童が増えているということは、高学年の児童クラブ入所をはねのけている要因があるということです。

 それは運営支援の想像では、「低学年、とりわけ小学1年生を児童クラブで受け入れる容量を確保するために、高学年の退所を断る」というものです。待機児童として計上されるには、正規に申し込んで断られた、ということが必要です。現実に4年生や5年生の待機児童が多いのは、次年度の利用を申し込んだけれど断られた、それはなぜか、それはつまり、新1年生や低学年の入所を優先させているからだ、ということを想像することが自然です。
 実際に、多くの市区町村で児童クラブの説明に「低学年の入所を優先します」とか「高学年は低学年の入所をして余裕があれば受け入れます」と記載されています。入所の要件をクリアする限り、児童クラブの入所を希望するこどもを全員受け入れると表明している自治体はほとんどありません。

 しかし今回の佐賀市の事例は、さらに事態を複雑とするものです。そもそも制度として受け入れていないのですから待機児童ではありません。実施状況調査ではどの学年まで受け入れるかも調べています。
「29 市町村による対象児童の範囲」がそれで、1年生までと2年生までは、0市町村です。
3年生まで 37 (2.3%)
4年生まで 30 (1.8%)
5年生まで 3 (0.2%)
6年生まで 1,561 (95.7%)
 圧倒的に小学6年生までを受け入れ対象としていることが分かりますね。それはもちろん、放課後児童健全育成事業を定める児童福祉法が、同事業の対象を小学生としているからです。2012年に改正(施行は2015年度)されるまでは「おおむね10歳」が同事業の対象でした。それでも多くの市区町村は法律通り、小学生全学年を対象とするようになっています。3年生まで、4年生までというのは、東京都内に今なお見られます。小学生が多すぎて低学年入所だけで施設の限界を迎えてしまうからでしょう。

 しかし、はっきりと「小学3年生、4年生まで」と明示している自治体は、まあ正直でしょう。小学生が対象ではありますが同時に「地域の実情に応じて」実施できる事業でもありますから、待機児童を出すよりかははっきりと門を閉ざしてしまっている方が、分かりやすくはありません。もちろん、歓迎できることではありません。早く全学年の受け入れを可能とするべきです。

 しかし一方で、佐賀市のように、表向きは全学年を受け入れますよとしながら実は運用において「入れないんだよね~」としているのは、結果として非常に残念です。悪質とさえ言えるでしょう。保護者に期待を持たせておいてその希望を打ち砕くのであれば残酷です。条例を変えるなり、条例を変えないならもちろん児童クラブの整備を急いで早急に希望する全学年の児童クラブ受け入れを可能とするように努力するべきでした。それを怠った結果が、この批判となって現れたということです。

<佐賀市だけの問題ではない>
 わたくしは「全国市区町村データーベース」の作業を行っています。1巡しまして現在はのんびりと2巡目に入っています。基本的にホームページやインターネットの検索エンジンを使って市区町村ごとの児童クラブの様子を確認しています。
 この中で気が付いたことがあります。それは、受け入れる学年は施設によって、また児童クラブ運営事業者によって異なっていることがある、ということです。次のようなパターンがあります。
・保育所や認定こども園、幼稚園の運営法人が併設する児童クラブにおいて、受け入れる学年を限定すること。基本的に自施設の卒所、卒園児童である低学年の受け入れが多い。なお同じ市区町村内の別の事業者では別の学年まで受け入れることが多い。
・1つの小学校に複数のクラスがある児童クラブの場合、校内に低学年、校外の施設に高学年というように、低学年や高学年、また1~2年生や3年生以上という学年に従ったクラス分けをすることがある。
・受け入れは3年生や4年生までとするが障がいのあるこどもは高学年でも受け入れる。

 上記のような場合で、低学年しか入れない保育所併設の児童クラブでは、高学年になったら児童クラブを利用したくても入所できず、かといって同じ学区内に別の児童クラブがあっても、そこに入所させることもいろいろと考えてしまい(途中で、こどもたちの学童コミュニティーに加わることが難しいのではという不安等)、児童クラブの利用をあきらめて自宅で過ごさせる場合は、外形的に、入所の申請手続きをしない限り、待機児童とはカウントされません。
 低学年は小学校内、高学年は小学校の外の施設に移る場合、高学年向けのクラブがたとえ学校敷地内の別棟だったり小学校隣接の建物だったりしても、それを不安に思う保護者が利用をちゅうちょするとか、保護者はこどもの安全を考えて児童クラブを利用させたくでもこどもが不安がる、ということで利用申込をしなかった場合も、待機児童とはなりません。

 また、大都市では、ギュウギュウ詰めの大規模状態をこどもも親も嫌がって児童クラブに入所させないという選択をしても、待機児童とはカウントされません。とりわけ、いわゆる放課後全児童対策事業、つまり午後5時ごろまでは利用希望者全員を受け入れて午後5時以降は放課後児童健全育成事業となるような仕組みの受け入れ態勢では、とりわけ午後5時ごろまでは、利用するこどもの人数が大変多いのでギュウギュウ詰めとなりがちで、そのような環境で過ごすことの高ストレス状態を嫌がるこどもが「行き渋り」してしまうことがありがちです。本当は、安全安心な居場所であるはずの児童クラブが、全児童対策事業の結果、安全安心な「居場所」になっていないので利用申請を見送る場合も、待機児童とはカウントされません。

 こういう「隠れ待機児童」を考慮すると、全国の児童クラブの待機児童数は、もっともっと、はるかに多いものであるという想像が運営支援にはできてしまいます。実際、そうでしょう。

 児童クラブはただ単にこどもを預かる場所ではありません。こどもの安全安心の居場所を確保した上で、その場所でこどもが健全に育っていく、その育ちを児童クラブ側が援助し、支援することで、保護者が安心して社会経済活動に打ち込めるという仕組みの社会インフラです。ですから、利用を希望する子育て世帯のニーズを満たせなければなりません。
 待機児童はそれゆえに早急に解消されねばなりません。まずは「量」の整備を進めてこどもの入所希望をかなえられるようにすることであり、同時並行的に「質」の整備、つまりこども1人あたりの面積とか、こどもの集団の数とかの数値的な基準をクリアした上で、育成支援の充実を図ることが必要です。

 最初の入り口のところで待機児童数すら正確に行政庁が把握できていないなら、児童クラブ整備の効果的な施策も、立案しようがありませんね。コンプライアンスの観点からも、佐賀市の対応は問題です。脱法的な仕組みを11年も続けていたというのは、返す返すも残念です。

 佐賀市は2025年度から順次、クラブ運営を民間事業者に委ねる方針を掲げています。民間委託そのものを運営支援は反対しませんが、行政の適当な姿勢が民間事業者に伝染しては困ります。ただでさえ、補助金ビジネスに夢中の事業者がいますから。なお、報道では佐賀市は待機児童解消のために2025年12月定例市議会に補正予算として待機児童解消のため仮設児童クラブの整備費4660万円を確保するということです。やればできるじゃないですか。どんどんやりましょう。

 児童クラブの待機児童の実態は数字で公表されている以上のものであると考えられますから、国として、もっと待機児童の実態に迫る調査を考えて実施するべきでしょう。佐賀市の例は氷山の一角と肝に銘じて、複数の特徴的な地域に限定したサンプル調査でもいいのでまずは「児童クラブを利用したくても利用できない子育て世帯」の把握に努めてください。 

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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萩原和也